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「カササギ殺人事件」 感想

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「カササギ殺人事件」の感想記事です。
なるべくネタバレ無しで書きます。

惹句に惹かれた

最初に本書を知ったのは、「蔦谷書店 イオンモール幕張新都心」の店頭でした。
様々な賞を総ナメという事実を皮切りに、これでもかという程興味をそそる文言を並べて紹介されていました。

上下巻という構成自体に大きな意味があり、下巻の冒頭でアッと驚かされる。
そんな感じの惹句を見たらば、そりゃ読みたくなります。

あれから2カ月ほど。
この週末を使って、いっきに読破しましたので感想を書きます。
なるべくネタバレをせずに書きますが、内容には最低限触れています。
ご注意ください。

個人的な評価

本書は「2つの小説」で構成されています。
劇中のミステリ作家 アラン・コンウェイが認めた作中作「カササギ殺人事件」が1つ。
もう1つがアンソニー・ホロヴィッツ氏が書いた本書「カササギ殺人事件」です。

上巻を前者の作中作が綴られ、下巻で本編に入っていくという構成。
作中作が「現実」の事件に密接に絡まっていくというのがウリになっています。

本書は、純粋なるフーダニット小説です。
「誰が犯人なのか」その1点に焦点が絞られ、卓越したロジックで探偵が犯人を追いつめて行くのですが、豪華にも2つの謎解きが楽しめるという趣向になっています。
巧妙に張られた伏線とそれをしっかりと丁寧に回収していく手腕は、確かに一級品の本格ミステリとしての面白味がありました。

けれど、面白かったかと言うと、個人的には首を傾げざるを得ません。
謎が判明した時の爽快感も無ければ、あっと驚かされることも無く。
もっと言えば、2つの事件のリンクという趣向そのものに懐疑的な立場なのです。

理由

僕は上質なミステリには贅肉が無いと考えています。
フーダニットでもトリック小説でも何でもいいんですが、兎に角中心に謎がある。
それを彩る事件があって、ただのクイズ本にさせないドラマがある。
勿論レッドヘリングも必要な要素ですね。

「謎」を核にして、謎をより魅力的にする小道具が揃っていることが最低条件で、「謎」に一切関わって来ない道具は不要というのが持論。
この考えからすれば、作中作の「カササギ殺人事件」はあまりにも贅肉が多過ぎです。

そも長編である必要性はあったのでしょうか。
上巻丸々を使っての問題編は、冗長に過ぎます。
もっと作中作が事件に深く深く関わってくるのならば、あの長さも分かるのですが、そうじゃないですよね。

必要なのはタイトルと「名探偵ピュントの最後の事件」という部分のみです。
アランと言う作家の「人生」が集約されていたというのは理解してますが、そこは謎解きには一切絡まない部分。
ドラマと言う観点からも余計だし、レッドヘリングとしても機能していない。
クリスティのオマージュなのだとしても、作中作は短編でも十分だったのではないでしょうか。
クリスティは長編以上に中短編を多く書かれているし、作中作を短編にして1冊に纏めた方が、より趣向も明確になっていたと思うのですよね。

同様にクレアの手記、ドナルド・リーの存在そのものも無駄な部分に映りました。
長くて読んでいて退屈な上に、謎解きになんら関わって来ない。
「プロの作家の文章」と「素人の文章」の比較自体は面白く読めましたけれど、まぁ、いらなかったよね。


手がかりの多さも気になった所。
ネットで書評を探すと、これも「敢えての手がかりの多さ」であり、本物の手掛かりである木の葉を偽物の手掛かりと言う森の中に隠す趣向があったとありましたが、それにしたって上巻冒頭のスーザンの「現在」については明かし過ぎ。
解説では「どうして彼女が作中作の「カササギ殺人事件」のせいで人生を変えさせられたのか」という興味を読者に喚起させているとしてましたが、そうやろか?
確かにそういった効果は否定出来ませんが、それ以上に「結末の驚き」を大きく削ぐ形になっていたんじゃないかな。
実際僕がそうだったんですよ。

彼女の「現在」に辿り着く道筋は、2つしか考えられないんですよ。
退職をするか、会社が倒産するか
その上であの書き方だと、自ずと犯人が絞られるんですよね。
スーザンが犯人⇒逮捕されるから辞職 若しくは 会社の存続を左右するレベルの役員が犯人⇒倒産して失職
レッドヘリングでも無く、ただただ文章そのまんまの事実として書かれているので、答えを提示してるようなもの。
常にこの可能性を頭に残しながらだったので、謎解きが出来なくとも、犯人が判明しても「それだけ?」ってなってしまいました。
驚きようが無かったんですよね。
まぁ、ロジックの精緻さを楽しむという「本来の読み方」とは異なるアプローチなので、そこで評価を落とすのは間違っているのかもですけれど。


犯人当てのロジックは素晴らしいし、クリスティがポアロを嫌っていたという有名な逸話を作中の壮大な仕掛けに応用してる点も興味深い。
ミステリやクリスティに造詣が深ければ深い程本作の評価が高くなる気がします。

僕はただのミステリ小説好きであって、愛好家の方々からすると読書量も圧倒的に少ないです。
事実、ミステリ小説を読んだのは、本当に本当に久々です。
こういった部分で本書を心から楽しめなかったのかなと思います。