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「9人の翻訳家 囚われたベストセラー」感想 観客を驚かせることだけに腐心した穴だらけの似非ミステリ

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「9人の翻訳家 囚われたベストセラー」の感想です。
ネタバレあります。

はじめに

随分と久しぶりの感想となります。
面白そうなミステリ映画が立て続けに公開されるという事で、当ブログでも取り上げてみます。
1本目は「9人の翻訳家 囚われたベストセラー」です。
大層な煽り文句が付いてましたが…うううん。
ミステリとしてもクライムサスペンスとしても駄作だったぞ。

感想

ダン・ブラウンの代表作である「ロバート・ラングドンシリーズ」。
その4作目となる「インフェルノ」では、実際に翻訳家たちが地下室に閉じ込められて2か月間作業をさせられたという。
このノンフィクションを基に構想されたという本作は、9人の翻訳家たちが地下室に閉じ込められるところから始まります。
ところが、その小説の内容がネットにリークされてしまい…。
小説の内容を知るのは、作者と出版権を勝ち取った出版社社長、そして9人の翻訳家のみ。
しかし、翻訳家たちは外界との通信を絶たれた場所に幽閉されていた。
犯人は誰か、その目的は…?

なかなかに胸躍る状況を設定できているのですけれど、いかんせん全く活用出来ていないんですよね。

ネタバレをすれば、真犯人は9人の翻訳家のうちの中に居たわけですけれど、計画が支離滅裂。
穴ぼこだらけでした。

目的としては、復讐でした。
出版社社長に殺人を自白させ、さらには、「自作自演」の脅迫事件の黒幕に仕立て上げて破滅させたかった。
その為に講じた手段が、「未発表小説のネットリークを人質とした脅迫」だったわけです。
自分の手で口を割らせたかったのか、わざわざ9人の翻訳家たちの中に紛れて「潜入」までしてました。

ここまでは良いとしましょう。
問題なのは、肝心要となる「口の割らせ方」です。
そこがどうしても納得いかないんですよ。

劇中では、仲間の1人が耐えきれなくなって自白紛いの言動を取ったことでした。
そこから混乱は始まり、社長は話の流れから「無関係な」翻訳家の1人を銃で撃ちます。
社長の直接の逮捕事由は真犯人へのものを含めた2件の殺人未遂なのでしょう。
警察が介入してきて、社長は逮捕。
生存した8人の脚本家は解放されました。
その後、真犯人自ら面会に赴き、そこで真相を語って自白をさせましたが、これが計画通りなのだとしたらあまりにも杜撰。

そもそも真犯人は、社長に殺されかけましたからね。
たまたま胸元に入れていた本のお陰で事なきを得ましたが、一歩間違えば死んでいた訳で。
何故一番大事な部分が、「たまたま自白させられた」で終わってしまうのか。

現実ならば自然な展開なのかもしれませんが、フィクションのミステリでは駄目でしょう。

そもそも真犯人は何故仲間を集めたのでしょうか。
小説の真の作者であった真犯人は、社長から原本を盗む必要はありません。
地下室に閉じ込められている間に、なにか作戦を実行していたのならいざ知らず、何もしていません。
軟禁前に仕掛けておいた自動投稿が恙なく計画を進行させていただけで、真犯人も仲間も何もしてないんですよ。
せいぜいが意味のない「犯人はお前なんだろうごっこ」を演じていただけ。
仲間を集める意味も、仲間たちと社長の持つ原本の盗難を実行する必要もありませんでした。

もしもの時に無意味な犠牲を出さないためというのも無しです。
実際、社長に追い詰められた女性が自殺をし、無関係な女性が犯人扱いで乱暴され、さらには銃で殺されかけました。

本当に犠牲者を出さないためなのだとしたら、8人全員を仲間に引き込んでおく必要があったのです。
(折角作中に「オリエンタル急行」出したのだし。というか、あの場面、なんで正解したのに不正解扱いされてたのか謎だった)
自分が本物の作者だと名乗り出て、社長の罪を打ち明け、彼を陥れた後で、別会社から出版する際の翻訳家に抜擢するとでも言えば、協力を仰げたはずです。
誰も死なずに・仲間内で疑心暗鬼を生み出さずにすんだし、なによりも、社長に自白を強要させる状況も作りやすかったでしょう。


結局、「地下室に閉じ込められた状況」に囚われすぎたのでしょう。
「どんでん返し」の連続で観客を驚かせることだけに夢中になって、そこに意味も繋がりも持たせられなかった。
ミステリとしてあっと驚く結末があるわけでも無ければ、クライムサスペンスとして見ても、破綻した計画を見せられただけ。
復讐をやり遂げたという爽快感も無ければ、グズグズなラストで終わるという後味の悪さ。

もうタイトルは「3人の脚本家 着想に囚われた映画」に変更したらいいと思うの。
結構酷かったです。