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「オレたちバブル入行組」が日本人にウケた理由を考える

小説

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「オレたちバブル入行組」の感想記事です。
ネタバレありますのでご注意下さいませ。

始めに

ドラマ「半沢直樹」が物凄く評判良かった2013年夏。
そのブームに完全に乗り遅れ、「見たいな」「見ようかな」と思いつつも、遂には1話も視聴出来ずに終わってしまいました。
あれから少し時が経って今、とある事情から原作である「オレたちバブル入行組」を読む事となり、いっきに読破した訳です。

ドラマ版が原作通りなのかどうかは分かりませんけれど、面白かった。
あらゆるエンタメ要素をぎゅうぎゅうに押し込んで、単なる勧善懲悪的ヒーロー活劇としていない奥深さを持った傑作でした。
本来このブログではアニメ、漫画に関係の無い事は書かない方針であるのですが、あまりにも面白かったのでこの作品についてのレビューを書いてみます。
僕なりに3つの魅力を見出してみましたので、それを中心にしてみます。
(この記事のテーマはドラマになってますが、ドラマ版については触れてません。)

ミステリ要素

僕は小説(ラノベは除く)というと元来ミステリ小説しか読まない人間です。
だからなのかもしれませんけれど、全ての物語の骨子はミステリで出来ていると信じていたりします。

ミステリ小説の「読ませる原動力」というのは、言うまでも無く「謎」ですよね。
「どうしてこうなったんだろう」「どんなトリックなんだろうか」「犯人は誰なんだ」
様々な謎を読者に提示して「その答えを知りたい」という好奇心、欲求を掻き立てる事で、先を促している。

この「先を気にさせる・先を読みたいと思わせる力」というのは、どんなものにも必要であるし、その力は何かと紐解いていけば大抵が「謎」になる。
読者に何らかの謎を提示して、その謎の答えを知りたいと思わせられるかどうか。
小説に限らず全ての物語はこういう構成で出来ているのではないか。

ミステリ小説の場合は扱っているのが「殺人事件」等々犯罪であるのに対し、それ以外のジャンルの小説はそうでない。
ただそれだけの違いで、根本はミステリだというのが僕の考え。

「オレたちバブル入行組」もこの要素が十分に取り入れられておりました。
最初に東田満という分かりやすい敵キャラを登場させます。
徹底的に厭味ったらしく憎らしく描写する事で、ボス感を演出していました。
こいつを退治する物語なんだなと自然と刷り込まれたんですね。

ところが物語が進むと、東田と繋がっている謎の人物が登場する訳ですよ。
「おや?」と。
しかもその人物は半沢の事を知っている素振りを見せ、「読者に素性を明かさない」よう秘匿されている。
「誰なんだコレ」という好奇心が生まれました。

もうここからはこの「謎」に興味津々です。
先を知りたい。正体を知りたいの一心で夢中で読み進めました。
この時点で朝の2時頃だったでしょうか。割と詰んでましたw

これ以外にも、全体を貫いていた謎が「東田からどうやって金を回収するのか」ですね。
次々と判明する新事実が少しずつこの謎を解していく様は、ミステリ小説そのもの。
間違いなく「ミステリ」が物語を牽引していました。
少なくとも僕は、こういった謎の答えを知りたいという欲求に駆られていたんです。


そうそう。忘れてはならない疑問点がありました。
序章で半沢の面接時のエピソードが描かれていて、正直あの部分の意図が分からなかったんです。
「何故物語に関係無さ気な面接時のエピソードが盛り込まれてるのだろうか」…と。
あの部分は無くても問題無い様に映っていました。

そして何より現実と理想のギャップとでもいうのでしょうか。
半沢は面接時にこう述べています。
「何人もの先輩にお会いしているうちに、産業中央銀行の風通しのいい気質というか、行風がわかってきたんです。これはほかの銀行にはない魅力でした。こういう方たちと一緒に働きたいと思っています。」
本章を読み進めれば進めるほど「え?どこが?」ってなるんです。
どう考えても「一緒に働きたくない」行員ばかりが出てくる。

でも、この点は然程気にしていませんでした。
リアルじゃないですか。
入る前に感じていた雰囲気と実際に入ってから目の当たりにする現実には、多かれ少なかれギャップがあります。
当然会社も「少しでも良く見えるよう努める」訳ですし、社員にしてもマイナスな印象を持たせないよう配慮してくる。
よくあるお話だし、半沢の面接時の言葉通りでなくても普通かなと。
そう思っていたのです。

これが大きな間違いでした。
ここは重大な「謎」だったんですね。
もっと半沢の頭の良さを考慮すべきでした。
「そういう前評判を過信して将来を決めるような男では無い」という事を。

勧善懲悪とそれを敢えて壊す物語

日本人が大好きな要素に「勧善懲悪」があります。
古来より多くの物語に取り入れられてきた要素ですね。
弱者が強者を負かす「ジャイアントキリング」的な要素を孕む事もありますが、基本的にスカッとしたカタルシスを得られるようになってます。

この作品もまさに…ですね。
先程も登場した東田社長が悪役として登場。
他にも雑魚敵から中ボスまであらゆる敵キャラを登場させ、その度に半沢が斬って捨てていくわけです。
これら敵キャラを本当に分かりやすい敵キャラ。いうなれば同情の余地が無い(殆ど同情できない)よう徹底して描かれている為、彼らを負かす事でカタルシスを得られる。

「ジャイアントキリング」的な要素もあって、それが半沢の上司達。
浅野支店長を筆頭に小木曽、定岡、木村と次々と出てくる。
嫌味でムカつく上司を半沢がやり込める事で、読者はスカッとした気分を得られるようになっていました。

僕はこの作品を読む前は、この「勧善懲悪」要素だけの作品かと思っていました。
簡単に言えば「現代版・水戸黄門」的な。
サラリーマンの半沢が嫌〜な上司を次から次へと倒していく痛快娯楽劇みたいな。
黄門様と違って権力は持ってないけれど、実力と策謀で相手の上を行って、自分より格上の相手を負かすみたいなイメージだったんです。

中盤までは間違いなくそうでした。
少なくとも東田社長の共謀者が誰なのか判明するまでは。
ガラッと様相が変わったのは、件の決め台詞が出てからですね。

倍返し。

意外な事に一度しか使われて無いんですね。
ドラマでは、この言葉に着目して決め台詞に昇華したのかもしれません。
大ヒット作には、こういった分かりやすい名台詞って必ずありますからね。
ドラマ「半沢直樹」の場合は、「作られた名台詞」だったのかなと。
これは原作の2作目以降を読んでみない事にはなんとも言えない部分ですけれども。

さてさて、この台詞を抜粋してみます。
「オレは基本的に性善説だ。(中略)だが、やられたらやり返す。泣き寝入りはしない。十倍返しだ。そして―潰す。二度とはい上がれないように。」
同期の渡真利が恐怖心を覚えるほど、恐ろしい半沢の性格が出ている部分。
ここからは「勧善懲悪」物としての物語がガラッと一変するんですよね。

「勧善懲悪」のポイントは、「同情の余地が無い(殆ど同情できない)よう徹底して描かれている」事だと考えております。
ここが崩れると、それは最早「勧善懲悪」では無くなる。
物語終盤、そうなっていきました。

終盤で徹底的に描かれていたのは、半沢の怖さでした。
あれは精神削られると思いますもの。
共謀者につい同情を覚えてしまう程、ある意味で陰湿に追い込んで行きました。

そう。
共謀者視点で描かれる事で、「勧善懲悪」の定義を崩してきたんですよね。
共謀者自身がやってきた事は、立派な犯罪である以上同情の余地はありません。
彼の性格や半沢らにしてきた仕打ち、動機に至るまで「半沢に何をされても仕方ない」と思える部分。
ただ、追い込まれ方が悲惨過ぎて、この点のみに関して言えば同情に値する。

また、彼の家族に感情移入してしまうと間接的に同情出来ちゃうんです。
何も知らない彼の奥さんが、空気を察して半沢に泣きつく。
どうか許して欲しいと。

半沢は自らを「性善論者」と称するほど、人間根っからの悪は居ないと考える人物として設定されています。
過ちを悔い、心から反省してくれれば、無かった事にはしないかもですが、手心は加えるんでしょう。

共謀者が頭を下げ謝罪してきた点。
彼の妻から許しを乞われた点。
共謀者を通報しなかったのは、だからなのかなと。

ともかく、半沢は善玉とは思えない程「悪を倒す手段」が陰湿でした。
これによって悪役にも同情の余地が芽生え、結果的に「勧善懲悪」の概念を崩してきた。
もう一方の敵である東田社長に関しては終始「勧善懲悪」の定義を守っていたので、この捉え方は一面では正しい。
けれどそれだけでは無い奥深さも持っていたなという印象です。

どんでん返し

クライマックスの醍醐味といえば、カタルシスとどんでん返しでしょうか。
1つずつ見ていくと、カタルシスは半沢が出世する事と東田社長を完膚なきまでに痛めつける事で得られるようになっていました。

もう1つの要素であるどんでん返し。
ここは「うおーーーーーー」っと興奮を覚えた点。
まさかこういう構造を取っているとは予想だにしてなかったので、余計に驚きと興奮がありました。

最初の項目で書いた「謎」が紐解かれるという大どんでん返し。
「こういう方たちと一緒に働きたいと思っています」というのが嘘というか皮肉だったとは…。
同期の絡ませ方も上手いですよね。

とある上司への半沢の怒りは、この1人の同期の恨みを晴らすためだとばかり思っていたんです。
勿論それは事実ではあったんですが、それ以上のものがあったなんて。
何故半沢が産業中央銀行を志望したのか。
全てこのどんでん返しの為に序章があったのだと納得。
なんとも壮大な復讐劇でした。

終わりに

魅力的な謎で興味を引っ張り、勧善懲悪的ストーリーでのめり込ませる。
徹底的な悪党退治とほんの少しの情を残し、どんでん返しで締める。

こりゃ面白いですよ。
物語を楽しくハラハラと読める要素がこれでもかと入っているんですから。
こういう復讐譚もまた、日本人の美徳というのかな。
「忠臣蔵」等古来より日本人が好きな要素ですしね。

小難しい部分も分かりやすく書かれてますし、抵抗なく読めるのも魅力でした。
引き続き続編も読んでみる予定です。
今度ドラマも見てみよ。

オレたちバブル入行組 (文春文庫)

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